間もなくユーディナは二万ルーブルの入った封筒を受け取った。
これはスターリンの個人的な指示によって行われた。
そのとき、彼女はスターリンに次のような内容の手紙を書いた。
「・・・あなたのご援助を感謝します。わたくしはこれから、昼となく夜となく、あなたのことを国民と国にたいするあなたの苛酷な罪を許してくださるよう神に祈ります。神は慈悲深いかたですので、お許しくださることでしょう・・・」
そして、この自殺行為ともいうべき手紙をユーディナはスターリンに送ったのだ。
スターリンは手紙を読み終えたが、ひとことも言わなかった。
ほんのわずかでも顔をしかめれば、それだけで彼女はこの世から抹殺されるだろう。
しかし、スターリンは沈黙を守り、黙ったまま手紙を脇に退けた。
そのあと、予想に反して、眉ひとつ動かさなかった。
スターリンが別荘で息を引き取ったとき、レコード・プレイヤーにはモーツァルトのピアノ協奏曲のレコードがのっていたといわれている。
スターリンがこの世で聴いた最後のレコードだった。